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2008年11月

2008年11月30日 (日)

天使の落とした涙の中に #6

日曜日も雨だった。今日は特にすることもないし、シリウスを外に連れて行こうと考えて誘ってみた。

「シリウス、外に散歩に行かないか?って言っても僕の服のポケットだけど」

「そと?」

「そう、家の外。雨が上から落ちてくるよ。おもしろいんじゃない?」

「行ってみたい!」

シリウスはベッドの上で飛び跳ねた。無邪気なシリウスが可愛かった。青い服を着せると昨日と同じようにシリウスは喜んでくるくると回っていた。そして落ち着くとやはりシリウスのために仕立てたようになった。まるで魔法使いだな。僕は単純にそう思った。驚くというより、もうなんだか当たり前のような気がしていた。僕はシリウスをジャケットの胸ポケットに入れて家を出た。降ってくる雨が見えるように透明のビニール傘をさしてやった。外の空気は冷たく、歩いている人はあまり見かけない。僕は周りを気にすることなくシリウスに話しかけることができた。シリウスが来た金曜日の夜、母はシリウスの存在に気がつかなかった。きっとシリウスは僕にしか見えないんだ。なぜだか僕は絶対の自信があった。

「ほら、シリウス。見てごらんよ、こんなにたくさん降ってくるよ。雨の音とかするだろう?」

シリウスはポケットから落ちそうになるくらい体を乗り出して外を眺めていた。

「和也、あれはなに?」

何度この質問を受けただろう?家を出てからずっとだった。見るもの全てがシリウスの気を引いた。けれど僕はまったく嫌にならなかった。聞かれるものひとつひとつ、シリウスにわかるように説明した。

僕はシリウスの質問に答えながら、物を見る目が少し変わったような気がする。シリウスは普段僕たちが全然気にしないようなことまで見ていた。雨ひとつを取ってもたくさんの質問を繰り返した。車のはじく水しぶき、街路樹の枝や電線から落ちてくる雫、水たまりに広がる波紋の大きさや傘の上を流れる雨粒、道端の雑草にたまっては流れる雨粒、雨を逃れて寄り添いながら時折体を震わせて体についた雨水を飛ばしているすずめ、遠くに煙って見える山並み。雨ひとつがシリウスには何もかもが心躍るような出来事だった。

僕はこんな風にゆっくり周りを見ることなんてなかった。いや、昔小さかった頃僕もシリウスと同じようにいろいろなことに目を奪われては母親に尋ねていた気がする。どうして飛行機は空を飛ぶの?どうして車はあんなに速く走れるの?僕も大きくなったら車みたいに速く走れるかな?…どうして、か。何でも面白かった。蟻の行列をたどっていって虫の死骸を見つけて驚いたり、石ころを集めて宝物にしていたりしていた。僕はいつの間にかぼんやりしていた。

「和也!!」

シリウスが叫んだ。僕ははっと我に返った。目の前は横断歩道で、信号は赤だった。車の往来がはげしかった。

「ごめん、シリウス。考え事してたよ。ありがとう」

「うん、あんなに早く走ったら危ないね。あれはなあに?」

「車だよ。みんなあれに乗って遠くまで行ったりするんだ。雨が降ってても濡れないしね」

「ぼく濡れるの、平気。だって和也と一緒にいるの楽しいよ。雨とかいろんなものがたくさん見れるんだもの」

シリウスは満面の笑顔だった。僕は何だか楽しかった。

雨が少し小降りになってきた。公園へ行くと人の姿はなく、僕はシリウスを肩に乗せた。シリウスのテンションはさらに上がっていった。あまりにはしゃぐので僕は滑り台に座らせてやった。僕より高いところにいるのが少し不安だったのか頼りない顔で僕をみつめた。そっと背中を押すとシリウスは滑り出した。木の葉が流れるようにシリウスの体は滑っていった。勢いがついて一番下まで滑ったときにシリウスの体は止まることなく飛び出した。その軌跡を追うように水しぶきが舞った。まるでスローモーションを見ているようだった。水しぶきがアーチを描き、シリウスの小さな体はその上を滑っているようだった。

雲の切れ間から薄日が射し、まるでシリウスが光っているかのように見えた。その時僕ははっとした。陽の光りを浴びているシリウスの背中に小さいけれどはっきりと透明の翼が広がっていた。天使の翼。僕は突然シリウスの不思議が全てわかったような気がした。

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2008年11月23日 (日)

天使の落とした涙の中に #5

ぼんやりしたまま家に入り、何気なくいつも通りに部屋へ入った。

「おかえり!カズヤ!」

僕は一瞬心臓が止まったかと思った。シリウスのこと忘れていたんだ。

「た、ただいま」

「ずうーっとここから見ていたんだ。カズヤが帰ってきたらすぐにわかるように」

シリウスはニコニコと窓辺で両手を広げていた。僕ははたと気がついた。朝は箱の中に入ってもらったのに、どうやって外へ出たんだ?しかも窓までかなり距離があるのに…?シリウスは嬉々として窓ガラスに当たる雨粒を指でなぞっている。僕は箱の中をのぞいてみた。タオルはそのままで朝入れたビスケットはほとんどなくなっていて、牛乳も少し減っている。でもどうやって箱の外へ出たのか、そんな形跡はひとつもなかった。

「シリウス、おいで」

窓の雨粒と一緒に踊るようなしぐさをしていたシリウスが振り返る。そして僕に両手を差し出した。まるで赤ん坊が抱っこをせがむように。僕はシリウスを手に乗せるとベッドの上に座って今日買ってきたものを広げて見せた。箱をひとつひとつ開けるとシリウスの顔に満面の笑顔が広がった。

「これ、ぼくの?」

きらきらした目で僕を見上げる。

「そうだよ、今日帰りに買ってきたんだ。これ、着てごらん」

服を一枚シリウスに渡すとシリウスは大喜びで袖を通した。ごわごわした布だったけどサイズはぴったりだった。テーブルと椅子を机の上におき、食器をその上に並べた。

「シリウス、どうだいこれ?」

振り返って僕は目を疑った。人形用の服がまるでちゃんと仕立てたかのような柔らかいものに変わっていたんだ。

「シリウス…その服…?」

「ねえ、カズヤ、それ見せて、ぼく座りたい!」

ベッドの上でくるくる回っていたシリウスは机の上のテーブルセットを見つけてさらにはしゃいだ。僕はシリウスを手に乗せて机へと移してやるときにまじまじと服を見た。デザインはそのままだけど、材質は全く別のものに変わってしまっていた。シリウスはいったい何者だ?普通に考えてこんなちっちゃい人間なんているわけないけれど、それでも何故だか人間のような気がしていた。

机の上のテーブルセットにいるシリウスは、どこから見ても今日店で見たようなドールハウスの一部だった。

「シリウス、気に入った?」

「うん!ありがとう和也。ぼくうれしいよ」

「たくさんは買えなかったんだ。あんまりお金ないしね」

「ぼくこれだけでいいよ」

にこにこして僕を見つめるそのまなざしは朝と少し違っていた。何が変わったのかはわからないけれど、確かに朝とは違う。僕はさっきの疑問をぶつけてみた。

「ねえ、シリウス。どうやって箱の外に出たんだい?」

シリウスの動きが一瞬止まった。戸惑った表情で僕を見上げた。

「ぼく、よくわからない。雨が見たかったんだ。そしたら窓のところにいたの」

「気がついたら?」

「うん、そう。…ぼく、変なのかな?」

悲しそうな顔をした。傷つけたかな…、と僕は後悔した。

「変じゃないよ。きっとシリウスは凄い力を持っているんだよ。僕にはできないことができるんだ。素敵じゃないか」

僕は一生懸命に言った。シリウスの顔が少し和らいだ。

「いいんだよ、シリウスはシリウスだから。僕は君の事変だなんて思わないよ」

「ほんとうに?」

「もちろんだよ。そりゃ、最初は驚いたよ。突然箱の中から出てくるんだから。でも今は平気だよ」

「ありがとう!」

シリウスが元気を取り戻した。ほっとした。シリウスはまるでガラス細工のような心を持っていた。何も考えずにうっかり触ると壊れてしまいそうだった。それでも白い服を着た小さなシリウスは、何だかとても僕の気持ちを和ませてくれた。

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2008年11月 5日 (水)

天使の落とした涙の中に #4

「さて、何をおごってもらおうかな」

坂井は飲食店のほうへと目を向けだした。忘れてた。それがあったんだ。

「うどんか、ラーメンで我慢してくれよ。手持ちがもうない」

「当たり前だろ、あんなに一気に買ってんだから」

あっさり言われてしまった。

「別にいいけどな。じゃあ、ラーメンにする」

二人でよく行くラーメン屋に入った。坂井はチャーシュー麺にライスまでつけやがった。僕はもうこれ以上出費できなかったから、普通のラーメンだけにした。ラーメンがくるまでサッカーの話題で盛り上がっていたけど、ラーメンがくると食べるのに夢中になり話題がとぎれた。半分くらい食べたときに坂井が話しかけてきた。

「お前さあ、あれから莉那ちゃんとどうなってんの?」

痛い質問だった。

「どうって言われてもなあ。自然消滅みたいなもんだよ」

「そうかあ、つらいな」

「まあ、でも僕が悪いんだし」

「半分はな」

坂井はさらっと流してくれた。

「あーいうのって、お互い様じゃないの?大変なのは間違いなく女の子だろうけどさ、もとはどっちも悪いと思うな」

「そうなのかなあ」

「だって、そうだろ?二人ともちゃんと気をつけてればよかったんだしさあ。お前も反省したんだろ?」

「したよ。かなりね」

「でも、だからって自然消滅はだめだろ。一回ちゃんと莉那ちゃんと話してみたら?」

意外な言葉だった。あの喧嘩寸前の一件があって以来、たいがいどの友達もあまりその話題には触れてこなかった。サッカー部員たちと話をしたとしても、親と謝りに行ったところくらいまでしか話さなかった。

「なんて言えばいいのかわからないよ」

「難しいよなあ。でもさ、子供一人死んだって言うか、死なせたって言うと言葉悪いけどごめんな。けどそういうのって彼女はお前よりしんどいと思うし、好きだったんならちゃんと話するべきだと思うよ」

「そこまで考えたことなかったよ」

僕は食べかけのラーメンに目を落とした。

「なんていうか、けっこうそういうの、俺よく聞くんだよな最近。誰かは二回堕ろしたとか、失敗したとかなんだとか。おかしくない?平気でそんなこといってんだぜ。なんとも思わないのかなあ」

坂井はそう言うと残りのラーメンを一気に食べてしまった。

「だからさ、俺お前にはそんな奴らと一緒になって欲しくないわけ。もしそうなったら、俺お前と友達やめるよ」

ものすごく大人な考え方だと思った。ていうか当たり前にそんな風に言い切れるのがすごかった。

二人で店を出てすぐ坂井の携帯が鳴った。

「もしもし…、ああ、なに?…え?今は和也と一緒。…今から?どこで?ちょっと待って。なあ、順と拓哉たちがフットサルするんだって。お前も行く?」

「あ、僕は今日はパス」

「OK、ああ、もしもし。俺だけ行くわ。え、和也は忙しいの。うん、じゃあ後で」

坂井がカバンを持ち直して僕を見る。

「じゃ、俺行ってくるわ」

「うん、今日はサンキュー。さっきのこともちゃんと考えるよ」

「がんばってくれよ」

坂井は手を上げて走っていった。僕も家に向かって歩きながら考えていた。確かに僕はあの時、莉那がどんな気持ちでどんなことを考えていたのかなんて想像したこともなかった。僕には一生わからない痛み。でも僕は理解しようと努力することさえしなかった。

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2008年11月 3日 (月)

天使の落とした涙の中に #3

次の日は朝から雨だった。僕が起きるとシリウスはもう起きていて、タオルにくるまってベッドの端から窓の外をじっと見ていた。

「おはよう、シリウス。早起きだね」

僕が声を掛けると彼は嬉しそうな顔をして振り返り、窓を指差した。

「カズヤ、みて。あそこにね、ぱたぱたぱたってみずがとまるんだ。そしてね、つつ~っておちていっちゃうんだよ」

彼はすごくワクワクしているようだった。

「ほら、また。あっ、こんどはいっぱい!」

「あれはね、雨って言うんだ」

「アメ?アメってなあに?」

「空から降ってくる水のこと」

「だれかが、おみずをまいているの?ジャバジャバ~って?」

「うーん、ちょっと違うんだけど…」

僕はなんと説明していいのかわからず悩んでしまった。前にもこんなことがあったっけ。確か従兄弟の兄さんところの子供に似たような質問をされたんだ。結局そのときもなんとなく曖昧な答えで逃げたんだっけ。子供ってめんどくさいなんて思いながら…。

「きっと空の雲にはたくさん水がたまっているんだよ。たくさんありすぎてこんな風におちてくるんだよ」

単純だったけれど、僕の思いつく答えはそれが精一杯だった。けれどシリウスはすごく感心してくれた。

「カズヤってなんでもしっているんだね。すごいや!」

そして嬉々としてまた窓の外を眺めていた。僕は時計に目をやった。

「うわっ、もうこんな時間!ごめん、シリウス。僕もう行かなきゃいけないんだ。しばらく1人だけど我慢してて」

僕は慌てて用意を始めた。シリウスは楽しそうにずっと外を見ている。カバンを持って出ようとして僕ははたと気がついた。シリウスって何も食べていない?食べないのか?そういうこと何も言わないけれど…。

考えた末、僕は台所へ行って何かないかと探した。ビスケットか…、これなら大丈夫だろう。中の小袋をひとつ取り、冷蔵庫から牛乳を出して手を止めた。何てことだ。ビスケットくらいなら頑張ってかじれても牛乳なんてどうやって飲むんだ。シリウスサイズのカップなんてこの家にあるわけないじゃないか。

仕方ない。僕は食器棚を見回して使えそうなものを探した。そして振り返ったとき、父親のウィスキーについていた小さな計量カップが目に付いた。シリウスの大きさに比べるとバケツみたいなものだったが他になかった。使っていないのを確認してできるだけいっぱい入れて部屋に戻った。

シリウスには箱に入ってもらってその中にビスケットを二枚と牛乳を入れたカップを入れた。

「ごめんな、こんなので。帰ってくるまでに何か考えておくから」

シリウスはキョトンとして僕の顔を見ていた。

「行ってくるね」

走って学校に着いたときに予鈴が鳴り始めた。あわてて校舎に駆け込むと向こうの廊下を莉那が走っていた。あいつが遅刻?珍しいことがあるもんだ。そう思いながら僕も教室へと急いだ。けどしっかりHRで遅刻になった。

午前中の授業はいつも以上に頭に入らなかった。とにかく四時間シリウスのことを考えていた。どうしたもんだろう。あいつって人形サイズだし、おもちゃ屋に行けばなにかあるかもしれない。と僕はひらめいた。帰りに寄ってみよう。

昼休みに僕は部室へ顔を出すと、坂井が声を掛けてきた。

「今日雨でグランド使えないし、中は他のクラブが使う日だから筋トレだって。お前出る?」

間違いなく坂井は帰るつもりだ。そう気がついて僕も便乗することにした。

「ごめん、今日用事があってさ、買い物に行かないといけないんだ。そうだ、もしお前休むんならついてきてよ」

と誘ってみた。

「いいよ」

案の定だった。こいつは筋トレ嫌いで、筋トレのときは三回に一回くらいで休んでいる。「で、何買いに行くの」

「あ、えっと、従兄弟の兄さんのところの子供にさあ、買って欲しいって言われてた人形のおもちゃとかなんだけど」

「え、まじで?女の子のだろ?恥ずかしいなあ」

「だろ?だから一緒に来てくれたら嬉しいんだけど」

「う~ん、まあ、いっか。いいよ、行こう」

助かった。女の子のおもちゃなんて僕一人で入れるか自信がなかった。二人ならましだ。黒板に欠席を書いて、二人で部室を出た。

駅前の商店街まで来ると、もうクリスマスムードが漂っていた。去年は莉那と二人でクリスマスパーティーの買い物したっけ…。僕はぼんやりと考えていた。おもちゃ屋の前に来ると、坂井が言った。

「なあ、俺ちょっとゲーム見に行ってていい?」

「おい、待てよ。付いて来てくれるんだろ?一人じゃ無理だって」

「えー、かんべんしてくれよ」

「お前んとこ妹いるじゃん。教えてくれよ」

とにかく僕は頼み込んだ。

「じゃあ、後でなんかおごってくれな」

足元見られた、と思ったけどここまで来たら仕方がない。

「いいよ。だから頼むって」

「わかったよ」

坂井は肩をすくめて、僕と一緒に売り場へ入っていった。あれこれと見てみたけれど一言で人形といってもびっくりするくらいの種類とサイズがあった。僕はとにかくシリウスに近いサイズの人形を探した。

「お前んとこの兄さんの子供って何の人形持ってんの?」

あてもなくウロウロしていることに気がついたのか坂井が聞いてきた。僕は焦った。わかるわけないじゃないか、人形の種類なんて。

「動物のとかさあ、ジェニーとかなんだか、あるじゃん」

さすがに妹がいると詳しいな、と僕は変に感心した。

「いや、何の人形だかよく知らないんだ」

素直に言ってしまった。

「おい、それじゃ探しようがないっつーの」

「えーとさあ、こんくらいの人形だったと思うんだけど」

と僕は手でサイズを示した。

「結構小さい人形だな。うーん、なんだろ。やっぱり動物の人形じゃない?」

そう言って坂井は歩き出した。あわてて僕もついて行くと一つのコーナーに入っていった。あった!シリウスサイズだ!心の中で僕は叫んでいた。

「あー、これこれ。お前よくわかったなあ」

「いや、なんとなく。妹が集めてるんだよ。こういうの」

感謝した。坂井と坂井の妹にも。僕は棚を見てびっくりした。おもちゃのくせに結構な値段がするじゃないか。

「妹いわく、リアルな小物がいいんだって。よくわからないけどさ。でも高いよなあ。こんな小さいくせに」

坂井も僕と同じ考えだった。けど、今の僕にはこれが必要なんだよな…。まず僕は食器のセットを見た。千円もする…、高い。けどどれもこれも似たような感じだ。あきらめてグラスと皿とかが入ったやつを一つ取った。その横には家具があった。確かに本物みたいだ。財布の中身を考えながら椅子とテーブルのセットを取った。もういいか、と思ってレジへ行こうとしたとき、その人形の着せ替えの服が並んでいた。そうか、服か。考えもつかなかった。僕が服を見だしたのを横目に坂井はあきれていた。

「お前、そんなに買ってメリットあんの?」

「一応正月前だしね。これだけ買っとけば間違いなく返ってくるんじゃないかと思ってさ」

ごまかしながら、返ってくるわけないよ…と心の中でぼやいた。白いドレスと、青いドレスを取ったところで坂井が別のを見つけてきた。

「これ、よくない?クリスマスっぽいじゃん」

見せてくれたのはサンタ服だった。一枚が五百円。三枚で千五百円…。三千円を超える出費はかなり僕の財布の中身を圧迫している。けど、坂井に悪いし、その服も買うことにした。クリスマスプレゼントだと思ってるもんな…。支払いを済ませると財布の中身が七割なくなった。

「ありがとうございましたー」

店員の声を背中で聞きながら僕はかなりへこんでいた。

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