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2009年2月 6日 (金)

天使の落とした涙の中に #17 to end

僕は立ち上がった。そして上着を取ると決心を決めた。シリウスは僕に勇気をくれた。僕が今しなければならないことは一つしかなかった。携帯を上着のポケットに突っ込み、僕は部屋を飛び出した。暗い街の中を走りながら僕は携帯を取り出し、一つの番号を呼び出した。

「もしもし、莉那?今から莉那の家に行くよ。話があるんだ。どうしても今聞いて欲しいんだ、後十分くらいで着くから出てきてくれないか」

見慣れた町並み。けれど僕の世界は変わっていた。僕は言わなければならない。あの時言わなければいけなかった謝罪の言葉を。いい加減だった僕が傷つけてしまったのは他の誰でもない、莉那だったんだ。今一番苦しんでいるのは莉那だ。シリウスが行ってしまって悲しいのは僕よりも莉那なんだ。僕は走った。

「和也!」

向こうから莉那が走ってくるのが見えた。莉那の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。僕は力いっぱい彼女を抱きしめた。

「悪かった、莉那。本当にごめん。あの時お前のこと何も考えてなかったよ。つらい思いをさせてしまって、何もできなくて…、本当に悪かったよ。謝って済むことじゃないってわかってるけど。本当はあの時に言わなきゃいけなかったのに」

莉那は僕の腕の中で首を振っていた。

「和也、行っちゃったの。あの子が…、あの子が…」

「わかってる。莉那、わかってるよ。僕のところからも行ってしまった」

僕は莉那をずっと抱きしめていた。しばらくして彼女は途切れ途切れに話し出した。

「私、子供を堕ろしたときからずっと悩んでいたの。本当にこれでよかったのかって」

僕は彼女の目をじっと見つめて聞いた。

「ずっとずっと考えてた。そしたら突然あの子がきたの。真っ白な服を着て窓のところに座っていたわ。私を見つめて言ったわ、僕シリウスって言うのって」

僕は驚いた。僕のときと同じように莉那のところへ現われたのだと思っていたけれどシリウスは僕のところへ先に来ていたのか。

「僕、ここにいていいかなって聞くから、私いいよって言ったの。でもあの子すごくやんちゃだった。突然机の上をめちゃくちゃにしたり、私のノート隠したりとかずっといたずらしていたわ。何回怒っても駄目なの。私すごく怒ったときがあった。そしたらあの子震えて、隠れたっきり出てこなくなったの。どこに隠れてるのかわからないからずっと探したわ。その時は見つからなかったの。でもね、眠るときは私のそばでないと眠らないの。夜になったらこっそり出てきて机のところにいたのよ。私が知らんぷりしてたらちっちゃな声でね、ごめんなさいって言ったわ」

あのときだ。シリウスは僕に謝り方を聞いてきた。

「私、もう怒ってないよって言って抱いてあげたわ。そしたらすごく嬉しそうな顔してね。私、母親ってこんな感じなのかなって思った。怒ったり、許したり。それからはあんまりいたずらしなくなったわ。私の肩に座って歌を歌ったり。なんでかわかんないけど和也の好きな歌ばっかり歌ってるの。それにあの子ね、時々和也そっくりのしぐさをしてたわ。まるで小さな和也がそばにいるみたいだった」

莉那のところにいたシリウスは幼い子供だったんだ。僕のところにいたシリウスとシンクロして成長していたんだ。僕がシリウスと過ごしたことが莉那のシリウスに影響を与えていたなんて。

「私楽しかった。一緒に学校へ行ったり、遊んだり、いろんなことして二人で過ごしたわ。あんなに楽しかったのに今日いきなりシリウスがもう一人現われたの。まったく同じよ。違ったのは羽があったことだけ。わけがわからなかった。だって突然シリウスが二人になったのよ。羽のあったシリウスは私に言ったわ。今まで僕といてくれてありがとうって。僕たちがいなくなったらつらいかもしれない。でも君には支えてくれる人がたくさんいるよ。だから悲しまないでって。すごく大人っぽかった。最後に二人で私を振り返って手を振ってくれた。いつも和也が別れるときにする笑顔で。そしてそのまま消えて行ったわ」

僕は莉那の肩をしっかり抱いた。そして僕の話をした。シリウスが僕の前に現われたときのこと。僕が名前をつけたこと。シリウスと過ごした時間のこと。僕がどんなことをシリウスに話していたのかを。そして、シリウスと別れるときに話したこと。シリウスがなぜ僕たちの前に現われたのかも。莉那は黙って僕の話を聞いていた。話し終わっても莉那は一言もしゃべらなかった。じっと何かを考えていた。

「莉那?」

しばらくたって僕はそっと聞いた。莉那は僕から離れると少し歩いて僕を振り返った。

「私、ずっと和也のことを許せなかった。でも許せなかったけど、ずっと和也のこと考えてた。あの子と…シリウスと一緒にいると和也を思い出したの。何だか、単身赴任の旦那さんを待ってる親子みたいな感じかな。和也が私たちのところに来てくれるような気がしてた」

僕は黙って莉那の言葉を聴いていた。

「こんな風に誰かのこと想えるなんて、初めてだった。許せなくて、悔しくて、でもやっぱり会いたくて…。シリウスはずっと私のそばにいたわ。ずっとそばにいて、和也のこと考えさせてくれた。シリウスはいなくなったけれど、和也は来てくれた。嬉しかった。和也の声を聞いた途端、会いたくてたまらなかったってやっと素直に思えたの。私のシリウスは何も言わなかったわ。でもね人を大事に、愛おしく想って育てる気持ちを私にくれたわ。あなたも父親の役目を果たしたのね。だからあんなに立派でしっかりしたシリウスが誇らしげな顔で私のところに来てくれたんだわ。」

莉那はふうっとタメ息をついた。でもその表情には悲しげな顔はなかった。

「ねえ、和也。私たち、この一ヶ月間で変われたのよね。シリウスと一緒に過ごしたことで、たくさんの大切なことを学んだのよね」

「そうだよ。今まで考えもしなかった大切なことをシリウスは僕に教えてくれた。でも僕はまだまだ変わらなきゃいけない。もっとしっかりした一人の大人にならなきゃいけないんだ。シリウスとの約束を果たすためにね」

「約束?」

「そう、僕はシリウスに言われたんだ。シリウスと過ごした時間を無駄にしないでって。僕たちならいつまでもシリウスと過ごした時間の大切さを想っていられるって信じて帰っていったんだ。だから僕はその期待に応えなきゃならない」

僕は自然と空を見ていた。シリウスの世界がどこにあるのかもわからないけれど、空を見上げて、きっとこの広い空間のどこかからシリウスが僕らを見ていてくれているような気がしていた。莉那も僕の隣に来て空を見上げた。

「そうね、私たちこれからもシリウスのこと大事に想って生きていかなきゃいけないわ。これからずっと…」

僕たちの頭上には満天の星が輝いていた。僕たちはこれからも生きていく。人の命の尊さを感じて生きていく。世界中の全てのものに宿る命の中で。全ての命とともに。永遠に変わらない、いや変えてはいけない。誰もがいつかは気付かなくてはいけない、そして忘れてはいけないこと。

天使の落とした涙は教えてくれた。

生命とは生きてこそ。

一番守らなくてはいけないんだ。

生きる、という幸せを…

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コメント

命って与えられたもの?自然に得たもの?巡り巡って来るもの?
よく考えた方がいいです…。

投稿: にゅ~ | 2009年2月15日 (日) 22時53分

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