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2010年2月

2010年2月22日 (月)

こんな夜には静かな旅を~vol.23

沈黙の時間が流れた
私は彼の言葉を待つことができなかった

「貴方がテオではないのですか?」

彼は私に視線を戻した
その瞳は、悲しげだった

「いいえ、僕はロルフです。最初に言ったように、テオ爺さんは僕の祖父の弟です」
「でも、そんなこと…」
「そう、ですよね。僕は云わば第三者でしかない。
 でも、貴女はそうじゃない。受け止めてくださいと言っても難しいですよね」

彼は、ふぅっと息を吐き出した
そして、再びバックを膝に置き中から数冊の分厚いノートを取り出した

「これを、読んでいただけますか?」
「これは…?」
「テオ爺さんの日記です」
私はじっと彼を見つめた
「ここに、全てが書いてあるはずです。僕は読んでいません。それとこれを…」
彼は2枚の写真と小箱を差し出した。
写真には精悍な体つきの、片足のない青年が写っている
彼に似てはいるが、別人だということがわかる
そして、その青年はショールを巻いていた
私の編んだショールに似ている
もう一枚は、その青年のアップ写真だった
首に、ドックタグをつけている
今の写真に比べて画質はよくないが、リボンが結ばれているのがわかる

この人が、テオ…
写真を食い入るように見ていた私は、この写真の青年がテオであることを確信しなければならないものに気がついてしまった
ドックタグのチェーンに、小鳥のチャームがついている
もらったときは気がつかなかった
私のもらったテオからの初めてのプレゼントは
この青年がつけているチャームと対になっている…

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2010年2月18日 (木)

こんな夜には静かな旅を~vol.22

しばらくして彼は持ってきたバックを再び開いた
そしてそっと中身を取り出すと、テーブルの上に置いた
日に焼けて、古びてしまった手紙たちに書かれた筆跡は
紛れもなく、私のものだ
私の書いた手紙だけれど…

私は黙ったまま手にとってみた
ほんの2,3ヶ月でこんな状態になるなんて…

無言のまま手紙をめくっていた私に、ロルフは静かに話しかけた

「エマさん、貴女が信じられないのは無理もないことだと思います。
 ぼくだって、初めてテオ爺さんに話を聞いたとき、到底信じられなかった。
 今日、ここに来るまで確信はなかったんですから」

私は、彼を見つめた

…この人、本当はテオなんじゃないのかしら…
…手の込んだいたずらをしているの?…
…テオ、どういうことなの?…

無反応な私に彼は話し続けた

「始まりは、樫の樹だったそうです。
 テオ爺さんはドックタグを湖のほとりで失くしたそうです。
 徴兵に入る前に、僕のお爺さんが作ってくれたものだそうです。
 まだ、名前を入れる前だった。お爺さんは、テオ爺さんに見せてくれたそうです。
 湖のほとりを散歩していた2人は、いつの間にかそれを落としてしまったらしく、
 気がついたのはしばらくしてからだったそうです。
 名前を入れるために僕のお爺さんがドックタグを探したらなくて、テオ爺さんに聞いてもなくて
 初めて失くした事に気がついたんだと言ってました」

私はぼんやりと彼を見つめて、話を聞いていた

「2人で探したそうです。でも見つからない。
 お爺さんは新しいものをまた用意すると言ったけど、
 テオ爺さんは、もう一度探しに湖へ行きました。
 でも見つからない。
 湖の近くに大きな樫の樹がありますよね。彼はその樹にもたれていたそうです。
 その樹が少しざわめいたような気がして、振り返ったけれど何もなくて気のせいかと思ったそうです。
 でも何気に樹のうろを覗いたら、可愛らしい小物の中に彼のドックタグが見えた。
 綺麗なリボンが結ばれていた。
 彼は天使からの贈り物だと喜んだそうです。
 失くし物が出てくるのは、天使の贈り物って言ってたそうです。
 もちろん、誰かが拾ってくれたのはわかっていたので、ささやかなお礼をしたそうです。
 ただ、誰が拾ってくれたのかもわからないから、同じ樹のうろに入れたそうです。
 しばらくして、また彼はその樹へ行きました。
 お礼を入れた箱はそのままだった。でも中を確認したら手紙が入っていた」

彼はそういいながら、ひとつの封筒を手に取った
それには私の筆跡がなかった
彼は、そっとその中から、朽ちてしまいそうな一片の紙を取り出して私に差し出した。
私はその紙を手に取った

『私はなにを拾ったのでしょう?』

私は息をのんだ
彼の顔を見つめる。
彼は、彼は…テオ?

きっと私の瞳が期待に溢れたことに彼は気がついたのだろう
そっと彼は視線をはずしてしまった

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2010年2月10日 (水)

こんな夜には静かな旅を~vol.21

「こんにちは、エマさんですよね」
彼は私に声をかけてきた
「そうですが」
「本当だったんだ」
彼は心底驚いたような声を出した
私は彼の姿をよく見ようと目を細めた
近づいてきた青年はあの時の人だった
「あなたは?」
「ロルフ ハーマンと言います」
「え…?」
私は聞き間違えたかと思った
でも、さすがに聞き間違いようのない名前
「ハーマンさん、ですか?」
「えぇ、ロルフでいいですよ」
青年はにっこりと微笑んだ
私は状況がつかめなかった
テオの言った通り、確かにクリスマスに訪問者がやってきた
テオ本人が来ると思っていた
まさか、テオに何かがあったのだろうか?
私は黙ったまま、ロルフと名乗った青年の前にただ立っていた

「ごめんなさい、突然たずねてきて。
 僕はテオ・ハーマンに頼まれてここへ来たんです」
「テオに?」
その名前に私はとっさに反応した
「えぇ、驚くかもしれないのですが、テオは僕の祖父の弟に当たる人なんです」
「え?」
この人の祖父の…弟?
私は疑いの眼差しで彼を見た
私の様子に気がついたのだろう
彼は持っていたバックを開いて見せた
「僕も最初は何のことかわからなかったんです
 でも、テオ爺さんはこれを見せて説明して欲しいと言いました」
私はそのバックの中身を覗き込んで息を呑んだ 

色褪せた手紙の束と丁寧にたたまれたショール
その手紙の差出人は、私だった

黙ってロルフの顔を見つめた
彼も黙っていた

少しの間を空けて、ようやく私は口を開いた

「中でお茶でもいかがですか?」
「ありがとうございます」

彼を家に招きいれ、私はカミーレのお茶を淹れた
もしもテオが来たならば、と用意していたお茶
でも訪ねてきたのは、テオではなく、親類縁者
テオはどこにいるのだろう
テオとはいったい誰なのだろう
…きっと彼は私の疑問にすべて答えられるのだろう

聞きたい?それとも…

彼は暖炉の前に立っていた
その視線の先にはヤドリギを乗せた宝石箱があった

私の気配に気がついて彼は振り返った
「これは?」
「テオに、頂いたんです」
「そうでしたか。僕の祖父もよく彫刻をしていました
 そうか、テオ爺さんも作っていたんだ」
彼は懐かしそうに眺めていた

「お茶をどうぞ」
私はテーブルにカップを置いた
彼は振り返り微笑んだ
「カミーレティーですか」
「えぇ、お嫌いかしら?」
「いいえ、テオ爺さんの家に行ったときは必ずこれを飲ませてくれました」
彼はまた懐かしそうにそう言って、一口すすり、目を丸くした
「…これは…」
「なにか?」
「このお茶はどうされたんですか?」
「私が毎年春に作っているんですけれど…どうかされました?」
「テオ爺さんもいつもこのお茶を作っていたんです。でもいつも、何かが違うとぼやいていました。
 爽やかさが足りない、あの味と違うと。僕はいつも美味しいと言っていたのですが、彼は納得していませんでした。
 確かにこのお茶は、彼のお茶に似ているけれど、とても爽やかだ。何かをブレンドしているのですか?」
「私はミントを少し入れるんです。…そういえばテオにも贈ったわ」
彼は少し黙った。黙ったまま、またお茶を飲み静かに口に含む

…もし、ここに座っていたのがテオ本人だったなら…

私はぼんやりと彼の姿を見つめていた

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