時の不思議

2010年4月26日 (月)

こんな夜には静かな旅を~vol.25

「彼は僕に、思い出を全て話して聞かせてくれました。
 不思議な出会いのこと。
 不思議な手紙のやり取りのこと。
 出兵の日のこと。
 戦時中、辛い時に思い出しては生き抜こうとがんばったこと。
 そして…」

彼はまた言葉をとめた
私は顔を上げ、彼を見た
彼もまた私を見ていた

「貴女と、初めて出会ったこと」

私は言葉も出なかった
私は、テオと会っている?

「貴女は覚えているでしょうか?彼の話では、まだ貴女は幼い少女だったそうです。
 ある春の日に、彼はあの湖に行ったそうです。
 足が不自由だったために、そうそう外出することはなかったらしいのですが、
 その日、彼は一人で湖に行ったそうです。
 松葉杖をついて、なんとか湖に着いた。
 戦争に行く前と変わらない景色がそこにはまだあった。
 彼は懐かしさと、あの夢のような暖かい交流を思って湖のほとりに座っていた。
 突然、ふわりと風が吹き、彼はふとあの樹を振り返ろうとした。
 そして気がついた。自分のすぐ後ろに、少女が一人立っていることに。
 少女は不思議そうに自分を見ている。
 じっと自分を観察していた少女は、声をかけてきた」

「おじさん、どうして足が片方ないの?」

私は、つぶやくように言った

「え?」

ロルフが私を見ている

「おじさん、どうして足が片方ないの?
 そうよ、私はそう言ったわ」

記憶の片隅に忘れられていた

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2010年3月21日 (日)

こんな夜には静かな旅を~vol.24

ロルフは小箱を開けて、ドックタグを取り出した
この写真のものだ。小鳥のチャームもついている
そこに刻印された名前は間違いなくテオ・ハーマンだった
あの時は刻まれていなかった誕生日は1925年…

ロルフはまた話し出した
「テオ爺さんは、僕たちが学校でしか習わない戦争に出兵しました。
 あの多くの戦死者を出した、世界大戦に。でも、なんとか生きて帰ってくることができました。
 片足を失っていたけれど、それ以外はたいしたことはなかったらしいです。
 僕も何度も会ったことがあるけれど、とても静かで優しい人だった。
 その日記は彼が戦争から帰ってきてからつけ始めたそうです。
 いつか、貴女に渡せることを願って」

彼の表情が少し曇った

「もちろん、彼はすべてのことを自分で貴女に伝えるつもりだったんです。 でも…」

彼は言葉を切った
私の心臓がトクンと警鐘を鳴らした

「間に合いませんでした」

彼はテーブルに視線を落とした

「間に、合わなかった?」
私の声はかすれていた

突然の出来事
突然の事実
あまりにも突然動き出した事実に私の気持ちは全くついていくことはできなかった

「今年の秋に、テオ爺さんは僕を呼びました。そのとき彼は風邪をひいていました。
 彼自身、たいしたことはないと言っていたのですが、体の変化に気がついていたのかもしれません。
 彼は僕に貴女とのことを話してくれました。
 そして、貴女と会って欲しいと頼みました。
 僕は、付き添うから自分で行くように言ったんです。
 そのときは、彼の話を信じてはいませんでした。
 年寄りの戯言だろうと…」
彼はゆっくりと、噛みしめるように話をした

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2010年2月22日 (月)

こんな夜には静かな旅を~vol.23

沈黙の時間が流れた
私は彼の言葉を待つことができなかった

「貴方がテオではないのですか?」

彼は私に視線を戻した
その瞳は、悲しげだった

「いいえ、僕はロルフです。最初に言ったように、テオ爺さんは僕の祖父の弟です」
「でも、そんなこと…」
「そう、ですよね。僕は云わば第三者でしかない。
 でも、貴女はそうじゃない。受け止めてくださいと言っても難しいですよね」

彼は、ふぅっと息を吐き出した
そして、再びバックを膝に置き中から数冊の分厚いノートを取り出した

「これを、読んでいただけますか?」
「これは…?」
「テオ爺さんの日記です」
私はじっと彼を見つめた
「ここに、全てが書いてあるはずです。僕は読んでいません。それとこれを…」
彼は2枚の写真と小箱を差し出した。
写真には精悍な体つきの、片足のない青年が写っている
彼に似てはいるが、別人だということがわかる
そして、その青年はショールを巻いていた
私の編んだショールに似ている
もう一枚は、その青年のアップ写真だった
首に、ドックタグをつけている
今の写真に比べて画質はよくないが、リボンが結ばれているのがわかる

この人が、テオ…
写真を食い入るように見ていた私は、この写真の青年がテオであることを確信しなければならないものに気がついてしまった
ドックタグのチェーンに、小鳥のチャームがついている
もらったときは気がつかなかった
私のもらったテオからの初めてのプレゼントは
この青年がつけているチャームと対になっている…

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2010年2月18日 (木)

こんな夜には静かな旅を~vol.22

しばらくして彼は持ってきたバックを再び開いた
そしてそっと中身を取り出すと、テーブルの上に置いた
日に焼けて、古びてしまった手紙たちに書かれた筆跡は
紛れもなく、私のものだ
私の書いた手紙だけれど…

私は黙ったまま手にとってみた
ほんの2,3ヶ月でこんな状態になるなんて…

無言のまま手紙をめくっていた私に、ロルフは静かに話しかけた

「エマさん、貴女が信じられないのは無理もないことだと思います。
 ぼくだって、初めてテオ爺さんに話を聞いたとき、到底信じられなかった。
 今日、ここに来るまで確信はなかったんですから」

私は、彼を見つめた

…この人、本当はテオなんじゃないのかしら…
…手の込んだいたずらをしているの?…
…テオ、どういうことなの?…

無反応な私に彼は話し続けた

「始まりは、樫の樹だったそうです。
 テオ爺さんはドックタグを湖のほとりで失くしたそうです。
 徴兵に入る前に、僕のお爺さんが作ってくれたものだそうです。
 まだ、名前を入れる前だった。お爺さんは、テオ爺さんに見せてくれたそうです。
 湖のほとりを散歩していた2人は、いつの間にかそれを落としてしまったらしく、
 気がついたのはしばらくしてからだったそうです。
 名前を入れるために僕のお爺さんがドックタグを探したらなくて、テオ爺さんに聞いてもなくて
 初めて失くした事に気がついたんだと言ってました」

私はぼんやりと彼を見つめて、話を聞いていた

「2人で探したそうです。でも見つからない。
 お爺さんは新しいものをまた用意すると言ったけど、
 テオ爺さんは、もう一度探しに湖へ行きました。
 でも見つからない。
 湖の近くに大きな樫の樹がありますよね。彼はその樹にもたれていたそうです。
 その樹が少しざわめいたような気がして、振り返ったけれど何もなくて気のせいかと思ったそうです。
 でも何気に樹のうろを覗いたら、可愛らしい小物の中に彼のドックタグが見えた。
 綺麗なリボンが結ばれていた。
 彼は天使からの贈り物だと喜んだそうです。
 失くし物が出てくるのは、天使の贈り物って言ってたそうです。
 もちろん、誰かが拾ってくれたのはわかっていたので、ささやかなお礼をしたそうです。
 ただ、誰が拾ってくれたのかもわからないから、同じ樹のうろに入れたそうです。
 しばらくして、また彼はその樹へ行きました。
 お礼を入れた箱はそのままだった。でも中を確認したら手紙が入っていた」

彼はそういいながら、ひとつの封筒を手に取った
それには私の筆跡がなかった
彼は、そっとその中から、朽ちてしまいそうな一片の紙を取り出して私に差し出した。
私はその紙を手に取った

『私はなにを拾ったのでしょう?』

私は息をのんだ
彼の顔を見つめる。
彼は、彼は…テオ?

きっと私の瞳が期待に溢れたことに彼は気がついたのだろう
そっと彼は視線をはずしてしまった

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2010年2月10日 (水)

こんな夜には静かな旅を~vol.21

「こんにちは、エマさんですよね」
彼は私に声をかけてきた
「そうですが」
「本当だったんだ」
彼は心底驚いたような声を出した
私は彼の姿をよく見ようと目を細めた
近づいてきた青年はあの時の人だった
「あなたは?」
「ロルフ ハーマンと言います」
「え…?」
私は聞き間違えたかと思った
でも、さすがに聞き間違いようのない名前
「ハーマンさん、ですか?」
「えぇ、ロルフでいいですよ」
青年はにっこりと微笑んだ
私は状況がつかめなかった
テオの言った通り、確かにクリスマスに訪問者がやってきた
テオ本人が来ると思っていた
まさか、テオに何かがあったのだろうか?
私は黙ったまま、ロルフと名乗った青年の前にただ立っていた

「ごめんなさい、突然たずねてきて。
 僕はテオ・ハーマンに頼まれてここへ来たんです」
「テオに?」
その名前に私はとっさに反応した
「えぇ、驚くかもしれないのですが、テオは僕の祖父の弟に当たる人なんです」
「え?」
この人の祖父の…弟?
私は疑いの眼差しで彼を見た
私の様子に気がついたのだろう
彼は持っていたバックを開いて見せた
「僕も最初は何のことかわからなかったんです
 でも、テオ爺さんはこれを見せて説明して欲しいと言いました」
私はそのバックの中身を覗き込んで息を呑んだ 

色褪せた手紙の束と丁寧にたたまれたショール
その手紙の差出人は、私だった

黙ってロルフの顔を見つめた
彼も黙っていた

少しの間を空けて、ようやく私は口を開いた

「中でお茶でもいかがですか?」
「ありがとうございます」

彼を家に招きいれ、私はカミーレのお茶を淹れた
もしもテオが来たならば、と用意していたお茶
でも訪ねてきたのは、テオではなく、親類縁者
テオはどこにいるのだろう
テオとはいったい誰なのだろう
…きっと彼は私の疑問にすべて答えられるのだろう

聞きたい?それとも…

彼は暖炉の前に立っていた
その視線の先にはヤドリギを乗せた宝石箱があった

私の気配に気がついて彼は振り返った
「これは?」
「テオに、頂いたんです」
「そうでしたか。僕の祖父もよく彫刻をしていました
 そうか、テオ爺さんも作っていたんだ」
彼は懐かしそうに眺めていた

「お茶をどうぞ」
私はテーブルにカップを置いた
彼は振り返り微笑んだ
「カミーレティーですか」
「えぇ、お嫌いかしら?」
「いいえ、テオ爺さんの家に行ったときは必ずこれを飲ませてくれました」
彼はまた懐かしそうにそう言って、一口すすり、目を丸くした
「…これは…」
「なにか?」
「このお茶はどうされたんですか?」
「私が毎年春に作っているんですけれど…どうかされました?」
「テオ爺さんもいつもこのお茶を作っていたんです。でもいつも、何かが違うとぼやいていました。
 爽やかさが足りない、あの味と違うと。僕はいつも美味しいと言っていたのですが、彼は納得していませんでした。
 確かにこのお茶は、彼のお茶に似ているけれど、とても爽やかだ。何かをブレンドしているのですか?」
「私はミントを少し入れるんです。…そういえばテオにも贈ったわ」
彼は少し黙った。黙ったまま、またお茶を飲み静かに口に含む

…もし、ここに座っていたのがテオ本人だったなら…

私はぼんやりと彼の姿を見つめていた

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2010年1月12日 (火)

こんな夜には静かな旅を~vol.20

こんなにクリスマスが怖かったことなんてあっただろうか
もう、明日はクリスマス
今日はクリスマスイヴ
一人ぼっちのクリスマスにもう慣れていたのに
明日が来るのが怖い
全てが、解き明かされるような気がしていた
眠れないのは外の吹雪のせいじゃない
何度も寝返りを打つ
窓に打ち付けられる雪が、窓だけでなく私の心まで埋めてしまったようだ
シンとした家の中に風の音が響く
暖炉の薪がはじける音さえ、私の心を暖めてはくれなかった

長い長い夜が明けてしまった
どれくらい眠れたのだろう?
ほとんど一晩中風の音を聞いていた気がする

外は晴れ渡っていた
私はいつものように小さな友達にえさをあげに外へ出た
小鳥たちが待っていた
私の姿が見えた途端に賑やかにさえずり始めた
まずえさ台に給餌し、周りにも撒いた
鳥たちが嬉しそうについばんでいる
鳥の数が段々と増えてくる

私はその様子を少し離れたところで眺めていた

しばらくして、鳥たちが一斉に空へ飛び立った
ボォッとしていた私はハッと我に返った

少し遠くに人影が見える

…まさか?………

その人影はどんどんこちらへ近づいてくる
その姿が近くなればなるほど、私の胸は破裂しそうなほどだった
太陽の逆光のせいで顔がわからない

まさか、テオなのだろうか?
”いつかのクリスマスに  君に会いに行くよ”
彼の手紙を思い出す
私の期待は最高潮だった

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2009年11月30日 (月)

こんな夜には静かな旅を~vol.19

私は何度も繰り返し彼の手紙を読んだ
Arno、確かに私の父の名前だけれど
私は手紙に父の名前までは書かなかった

戦争…ユダヤの迫害…第二次世界大戦のことだろうか

確かに父は戦争の末期に生まれている
この村からも沢山の戦死者が出たことも聞いている

でも、なぜ?
どうして?

あまりにも突然に突きつけられた事実を私は受け止めることができなかった

家に戻った私は、暖炉の前にいた
ヤドリギをのせた宝石箱を手に取る
私はその中にそっとロザリオを入れようとしたとき、ロザリオの裏に名前が彫ってあることに気がついた
”Theo Hamann”
もちろんこのロザリオがテオのものだとはわかっていた
でも、彼のファミリーネームを知ったのは初めてだ
ハーマン…
ハーマン?
どこかで聞き覚えのある姓…
私はハッとした
冬の初めの大雪の日
あの時の青年が、確かハーマンと言ったはず

でも…

私は事実を知るのが怖かった

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2009年11月29日 (日)

こんな夜には静かな旅を~vol.18

”Hallo   Emma
 長く手紙を書けなくてすまなかった
 僕の世界はもう崩壊しそうだ
 君に手紙を書くことすら儘ならない
 毎日誰かの死を聞くようになった
 村に残った男手は少ない
 僕らが最後だ
 でもとうとう、出兵の時が来てしまった
 君に出会うことも叶わない
 僕の生きている時間から遥か未来を生きている君だから
 
 はじめは信じられなかったんだ
 でも、君の手紙を読むたびに、僕とは違う空間にいるんだって感じたよ
 君の住んでいるはずの家にも行ってみた
 確かにGriebelの家はあったけれど、その家の子供は生まれたばかりの男の子だった
 名前はArnoという少年だったよ
 きっとエマのお父さんになる人だよ
 僕は君が生まれるずっと前の時間に生きているんだ
 なぜ君と出会えたのかはわからない
 僕は毎日樫の樹の下でスケッチしていた
 ずっとこんな平和な暮らしが続くと思っていたんだ
 けれど政権が変わって戦争が始まった
 僕の世界が狂い始めた
 ユダヤの迫害が始まっている
 多くの死者が出始めた
 こんな始めてはいらない
 でもそんな意見は通らない
 そんなことを言ってしまえば僕の家族はユダヤと同じ扱いを受ける
 彼らに何の罪もないのに
 僕にも徴収命令が来た
 いよいよ行かなくてはならない
 
 もうすぐクリスマスだね
 少し早いけれど Frohe Weihnachten! Emma
 生きて戻れるなら、いつか君に会えるだろうか
 会えることを夢見ているよ
 僕は出会えなかった君に恋をしたようだ
 君の声が聞きたい
 君の髪に触れてみたい
 君の瞳はどんな色なんだろう
 
 きっと、生きて帰ってくるよ
 そうすれば君と出会えるだろう
 
 いつかのクリスマスに
 君に会いに行くよ       Theo”

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2009年11月28日 (土)

こんな夜には静かな旅を~vol.17

私はハッとして振り返った
枝が一本揺れている
他に誰の姿もなかったけれど、私は思わず呼びかけた

「テオ?」

返事はなかった

でも、誰かの気配だけがする
誰かがこの向こう側にいるような気がした

「テオ?いるの?」

私の声だけが辺りに響く

突然、風が強く吹いた
樫の樹に積もっていた雪が舞い上がる
私は思わず目をつぶった
目を開けたときに、一瞬誰かの姿が見えた気がした
でも、それは気のせいで辺りは変わらず雪景色が広がっているだけだった

私は小さくため息をついた
期待ばかりが膨らんで、叶うことのない願いだと実感した
そのまま私は樫の樹を後にしようとしたけれど
まだ未練がましく振り返った
樹のうろで何かが光った

私は思わず駆け寄った
小さなロザリオがひっかかっていた
そして、うろの中に汚れた洋皮紙があった

私はそっとそれを取り出した
端の方に少し焦げた跡がある
紙全体が泥がついたようになっている
明らかに今までの手紙と違っていた

裏返して、目を疑った
赤黒い染みが点々とついている

これは…、血なのだろうか?
まさか?

…僕は戦争になんか行きたくない…

彼の手紙の一文を思い出した
戦争……戦争?
一体彼は誰なのだろうか?
彼は、どこに暮らしているのだろう?

私はうろにかかっていたロザリオを手に取り手紙を開いた

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2009年11月23日 (月)

こんな夜には静かな旅を~vol.16

私は毎日樫の樹へと通った
彼からの手紙を待っていた
どれだけ雪が深くても、私は樫の樹へと通った
届かないテオからの手紙を私は毎日待っていた

もうすぐ、クリスマス
私は一人、クリスマスの飾り付けをしていた
いつもならもっと早くにしているのだけれど
私はそんな気分にならなかった

本当は、テオと一緒に過ごしたかった

会ったこともない人に何故にここまで心惹かれるのだろう
わからない
けれど、私は彼に会いたい
そう、望んでいた

暖炉の上の宝箱に
ヤドリギをのせた

彼に出会えることを望んで

その日私は樫の樹へは行かなかった
外は出ることをあきらめざるを得ないほどに吹雪いていたからだ

私は黙々と作業をした
もしかしたら、また彼から手紙が届くかもしれない
ううん、彼は私の居場所を知っているのだから会いに来てくれるかもしれない

私は小さな希望を持っていた

そうしなければ、私は泣いてしまうかもしれなかったから

こんな切なさを抱いた冬は
今までに感じたことがないほどに寒かった

翌朝、雪はすっかりやんでいた
私は早速ガウンを羽織ると、表に出た
雪避けを作ってもらっていてよかった

私は降り積もった雪をゆっくりと踏みしめながら前へと進んだ

樫の樹まで、かなり時間がかかった

私はそっと樫の幹にもたれかかった
ひんやりした樹皮から、生命力を感じる気がした

樫のうろを覗くか、私は迷った
期待して、がっかりする
その繰り返しだったから

しばらく私は樫の樹にもたれて湖を眺めていた
すっかり氷が張ってしまった湖に積もった雪が
太陽の光を浴びてキラキラときらめいていた

その時、樫の樹が少し揺れた気がした

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